ナナ公の独り言

都内在住既婚会社員女の日記です

王様と家来と、隣の国

世田谷に洋食屋があって、青年二人で経営しているの。
もともと、そこは事務所とか住居用に設計されていてね、配水管とかが料理店用にはなっていないんだよね。

それで、不動産屋さんに電話が来たそうです。
配水管の調子が悪いって。

実は一年前、この物件借りたときからどうも詰まり気味で、
それはどうやら、ひとつ前に借りていたラーメン屋がちゃんと手入れしてなかったことと、
大家さんが引き継ぎのときにきちんとチェックしなかったことが原因のようなのね。

それで、不動産屋さんはその店に話を聞きに出向いて行きました。

その経営してる二人の青年は、一年前不動産屋さんに現われたときは、
少しおどおどしていて、いかにも田舎者ってかんじだったんだって。
そんで、不動産屋さんに物件を見つけてもらったとき、たいそう感謝して店を始めたそうだよ。

それがね、一年ですっかり変わってしまっていたの。

青年のうち、調理場担当のコックのヒゲがすごい偉そうになっていて、不動産屋さんにも居丈高。
まあ不動産屋さんは、
大家さんにちゃんと話して修理費ちゃんと取ってあげようと思っていたので、
別にそこでいばる必要はなかったんだけどね、ショックだったらしいよ。
一年であまりにもヒトが変わってしまったことに。

「じゃあ今までの修理費の請求書か領収書と、今回の見積もりを持って、今から一緒に大家さんのとこ行きましょうか」
ってことになった。不動産屋さんは自信があったの。大家さんかなりお人よしだったから。

するとヒゲがね、ホール担当のもう一人の眼鏡をかけた青年に、
「おい。そういうのはお前が全部もってたよな?」
って聞いたんだって。
そしたら、眼鏡君、おどおどして「い、いや。あれ?どこいっちゃったかな・・・うちにおいてきちゃったかも」
と言ったそうです。

そしたら、ヒゲが怒る怒る。ものすごい眼鏡君を怒鳴り散らしたそうだよ。
おまえはいつもそうだ、とか、ほんとつかえねーよ、とか。

眼鏡君はうつむいてじっとしてた。

しかたないので不動産屋さんはまた出なおしてきます、と言って店を出たよ。
店の外に出てもずっとヒゲの罵る声が聞こえていたって。

不動産屋さんが駅に向かうルートは、その店の通りをぐるっとまわって裏口の前を通るそうなんだけど、
そこを通ったとき、眼鏡君がうつむいてたくさんのナマゴミを出しているのを見たってさ。

かなしいね。
一年前は仲良しの友人同士で、一緒に店やろうってはりきっていたんだろうにね。
対等だったろうにね。
こんなことなら一緒に店なんてやらなけりゃ良かったのかもしれないよ。

すっかり王様と家来になってた。

お金がからむと友情も消えるんだ。

まだ二人が若いから、そうでもないけど、もしこれが脱サラした50代のおじさん二人だったら、
もっと胸が詰まるような思いだよ。



さて。
後日談いくよ。

不動産屋さんはちょっと調べてみたの。インターネットで。
世田谷のその洋食屋のことを。

そしたら、なんと「これから押さえておきたい都内の店100」にも出てて、
あのいばりんぼうのヒゲチャビンは、けっこう有名なシェフになっていたんだって。
そもそも腕には定評があって、
「あの○○で腕を鳴らした△△君がいよいよ独立した!」
とか紹介されてたんだってさ。

しかも眼鏡君のほうはDJとして有名な子だったんだって。

あらら。
かわいそうな子でもなかったし、店も大流行だったんだね。

不動産屋さんはナナ公に自慢したよ。
「でも、あの店、一番ほめられてるのは立地だった。『大通りから一歩さがった裏通りの隠れた名店。内緒にしておきたい素敵な場所』とかなんとか書かれてたよ。あんな住宅街、俺すぐつぶれるかと思って紹介したんだけどさあ。田舎者そうな二人だからいいかと思って。アハハ、俺のおかげだよね」

一番悪いのは不動産屋だよねえ・・・。

やっぱり王様も家来も一丸となって自分の国を守らないとホントに潰されちゃうよ?