ナナ公の独り言

都内在住既婚会社員女の日記です

カラフル

ナナ公は大学4年生の時に教育実習に行きました。
中学1年生に英語を教えたよ。
そのとき、演劇部の子供達が見せてくれた台本集のなかに今でも忘れられないストーリーがあるので、
紹介したいと思います。

舞台には4人の子供がいます。
4人はそれぞれ赤・青・黄色・緑の服を着ています。
ええと、ト書き(演じる上での注釈)で、どんな服でもいいし、なんならハチ巻きで色分けしても良い、
と書かれています。

4人は、体育座りをして、顔を膝の間に入れています。
やがてどこからともなく声が聞こえます。
「そろそろ時間だ。起きなさい」

4人のいるところは、どうやら生まれる前の世界のようで、声の主によると、
4人はそろそろ、生まれる順番が迫ってきているようです。

4人は、これから行く人生についていろいろ語り合います。
青が冒険家になりたいといえば、赤は小説家になりたいといい、
黄色は、なんでもいいからスポーツ選手になりたいとはしゃぎます。
緑はにこにこ笑っています。
4人とも性別もわからず、ただただ無邪気そうに、これから行く世界への期待でいっぱいです。
みんなとてもよい子達です。

そのうち、青がちょっと不安そうに言います。
「でも・・・そんなに素敵なところかな・・・うまくやっていけるのかな・・・」
赤は、そんな青がうっとうしいのか「もうやめてよ。しらけちゃうなあ!」と大声をあげます。
黄色が「大丈夫だよ。きっとステキなところだよ」と青を励まします。
無口な緑が「でも・・・こわいよね・・・どうなるんだろう」とうつむきます。

結局、声の主にすこしだけ自分の人生を見せてもらうことでおさまります。

まず、青。
舞台は暗くなり、スポットライトが青に当たります。
青はさけびます。「あッ僕、僕、男の子だ!男の子なんだ!」

青の人生はこうです。真面目でがんばりやの青。
子供の頃から、親の言いつけをよく守り、小学校に入ると、友達とも遊ばず毎日きちんとお勉強。
中学校でも成績はいつもトップですが、友達はいません。家族ともあまり会話しなくなります。
青は、だんだん自分の心が鈍くなっていくのを感じます。
そしてある日、青は学校の屋上にふらりとのぼるのです。手には遺書と書かれた封筒が握られています。

「僕ッ・・・僕、何する気なの??」

と叫んだところで、青のスポットライトが消え、舞台は明るくなります。
ぶるぶるふるえている青を、他の3人が気の毒そうに見つめます。

次は赤です。赤は、青の様子に少しびくびくしながらも、
「自分の人生みるんだもん、ちっともこわくなんかないや!」と言ってすくっと立ちます。

赤にスポットライトが当たると、赤は気づきます。
「あッ、あたし、女の子だ!」

赤が生まれた家庭には、お父さんがいませんでした。
お母さんは夜遅くまで働いていて、赤はいつもひとりぼっちでした。
夜中になってもひとりぼっちの赤には、夜中遊ぶ友達ができていきました。
中学生になった赤の目には繁華街のネオンや、夜の高速の映像が現われては消えていきます。

同じような夜が続き、ある夜明けのハイウェイ、赤は誰かの背中につかまって、バイクの後ろに乗っていました。
突然バイクがスリップし、赤の細い体は宙にとばされ、
ヘルメットをかぶってない赤の瞳に硬いアスファルトが迫ります。

「い・・・いやあああああああああっ!!」

赤のスポットライトが消えると、赤は頭を押さえてしゃがみこみました。
肩がぶるぶるふるえています。

黄色は「こわいな・・・こわいけど・・・見ないのもこわい・・」
そう言うと、スポットライトの中に入ります。

黄色はその瞬間さけびました。

「僕の・・・僕の右腕が動かない!!」

黄色は先天性障害で右腕がなく、生まれる子だったのでした。
幼い頃から、右腕がないことで、いじめられる黄色。
体育の時間など、右腕がないことでできないこともたくさんあります。
「もう死にたいよ」「なんでこんな体に生んだんだよ」
何度もお母さんに悪態をつく黄色。

中学校入学が迫ったある日、お母さんが黄色の学制服の右腕の部分をきりとって、ふさいでいます。
ぶらぶら揺れてどこかにひっかかったりするとあぶない袖は今までも、そうして加工してきたのです。
お母さんの目から、大粒の涙があふれ、黄色の右腕のなくなった学制服を濡らしていきます。
黄色はそれをものかげから見ています。

黄色のスポットライトが消え、無言でたちつくす黄色。
そろそろと右手を顔の高さにあげ、こぶしをひらいたりとじたりします。
「スポーツ選手になんて・・・なれないじゃないか・・・」

緑はだまって立ちあがります。

スポットライトが当たると、緑は言いました。
「ここ・・・どこ・・・?せまい・・・苦しい・・・こわい・・・。出して!出して!ここから出して!!」

それでおしまいでした。
緑は、どこからともなく聞こえてくる声の主に問いかけます。
「今のはなに?私、真っ暗なせまいところで、泣いてたわ・・・」

声は言います。
「おまえは、生まれてすぐ捨てられる。駅のコインロッカーに」

緑は声もなく崩れ落ちます。

舞台で、だまりこんでいる、4人。

やがて、赤が言います。「こんな人生なら、あたい、いいや。パスパス!ここにずっといるわ」
どことなく、はすっぱな口調になっています。
青も言います。「ぼ、僕もいいです。こんなつまらない人生遠慮しておきます」
「いいじゃんか。おぼっちゃん、出世できそうな人生じゃんか」
「そんな・・・。ひとりぼっちがどんなに寂しいか、友達の多い君にはわからないよ!」
それからしばらく二人の言い合いが続きます。

その中、黄色が上手のほうにむかって歩き出します。

「どこ行くんだよ!」
赤と青の問いかけに、黄色はゆっくりふりむきます。

「僕は行くよ。お母さんはこんな僕だけど、待っている。行くよ」

青が言います。「だってあんなにいじめられていたじゃないか!」
赤が言います。「右腕なくなっちゃうんだぞ!」

黄色は自分の右腕にじっと目を落とします。「うん。悲しいよ。なくなるなんて信じられないよ。でも僕は行くよ」

赤と青は黄色が上手に去っていくのをじっと見守っていましたが、
そのうち赤が言います。
「あたい・・・もしかしたら、死なないかも知れないし・・・。ただの事故かもしれないし・・・。
 ううん、あたい、がんばる。あんな遊びしないようにがんばるよ」
そして、赤は大またに上手に去っていきます。
「じゃあね!」と青に手を振って。
「待ってよ!」
青も叫びます。
「僕も行くよ!僕もきっとあそこから引き返してみせる。屋上からちゃんと降りてきてみせる!」
そして、赤と青も舞台から消えます。

最後に残った緑に、声が尋ねます。
「おまえはどうする?」

「私は・・・私も行きます。短い一生かもしれないけど、一生懸命泣いてみせる。一生懸命泣いて、誰かに気づいてもらう。そして(略)」

この劇は、この緑の独白(ちょっと長め)で、終わります。


教育実習生だったナナ公は、感動しました。
今でも覚えているくらいですからね。
今の人生を私達はみんな、生まれる前に見てきていて、それでもみんな選んで生まれてきたって、
なんていいお話なんだろうかと思いました。

まあ、ナナ公は、吹奏楽部の顧問だったので、感動したからといって、
演劇部の生徒達にべつになにもアクションおこしたわけじゃないんですけどね。
でもまあ、クリスマスも近いし、ブログもクリスマス風にしたので、
ひとつ、いい話でもかましてやろうと思って、長々書いてみたわけです。

担当したクラスの子達からはお約束の手紙があとから届き、
「ナナ公先生が本当の先生になって、戻ってきてくれることを楽しみにしてます!」
とか書いてあったよ。

アハハハハ。

彼らも、とっくに社会人の年齢。教育実習生の大半は単位のためだけに行っただけだってもうわかってるよね。
アハハハハ。

・・・てかもう、そんな昔の話なのか・・・ふー・・・