ナナ公の独り言

都内在住既婚会社員女の日記です

クリスマスの天使

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カタッ。

真夜中、チエリが、物音で目を覚ますと、そこには天使が立っていました。

クリスマスの天使だ。

チエリはすぐわかりました。

チエリの住む国では、クリスマスに訪れるものが2種類あります。

ひとつはサンタクロース。

もうひとつは、クリスマスの天使。今、チエリの目の前に立っています。

サンタクロースとは逆に、クリスマスの天使は、

悪い大人のところにやってきて、なにかひとつ奪っていくのです。

今年のチエリは悪い大人でした。

クリスマスの天使が現われたのも無理ないや。重い心でチエリは思いました。

「なにがほしいの?」

チエリはクリスマスの天使にそっと尋ねました。

クリスマスの天使は、白い指先を、チエリの胸にまっすぐ向けました。

そのままチエリは、気が遠くなりました。

朝、目が覚めたチエリは、すぐクリスマスの天使のことを思い出しました。

「結局なにをとられたのかしら」

チエリにはわかりませんでした。

クリスマスの天使がなにを奪っていったのかも、昨日までなぜあんなにも憂鬱に暮らしていたのかも。

わかりませんでした。

なにもかも、チエリの中から消えていたのです。

春に出会って秋に別れた恋人との苦い思い出がすべて。

ベッドの下に落ちていた読みかけの本を手に取ったとき、ページの間から恥ずかしそうな笑顔の青年の写真が1枚、はらりと床に落ちました。

「誰かしら・・・」

チエリの胸にはなにも浮かんできません。切なさも哀しさも罪悪感も。

しばらく、青年の写真をながめていましたが、誰かわからないので、ごみ箱に捨ててしまうと、
チエリは部屋を出ていきました。

「ちょっと好みの顔だったな・・・」と小さくつぶやきながら。

そして、新しい年がはじまろうとしていました。