ナナ公の独り言

都内在住既婚会社員女の日記です

目と耳

その青年はさびしがりやの嘘つきでした。
二人の少女と出会ったとき、青年は二人の心を手に入れたいと思いました。

少女の一人には耳がなく、
もう一人の少女には目がありませんでした。

耳のない少女には、青年の声が聞こえません。
彼の、さびしそうな瞳と、優しい笑顔に、恋に落ちました。

目のない少女には、彼の姿が見えません。
けれども、彼の唇から流れる甘い囁きに、恋に落ちました。

青年は、耳のない少女の手を握りながら、
目のない少女に、甘く囁き続けました。

ふっ、と目のない少女が何気なく伸ばした手が、耳のない少女の手に触りました。
耳のない少女の手は、誰かの手に包まれていました。
目のない少女の指が、そっとさぐっていきます。
青年は、あわてて身を引こうとしましたが、
耳のない少女の手に、きつく握りかえされていて、ふりほどくことができません。

目のない少女の指先が、青年の唇にたどりつきました。
青年の囁きが、とまりました。

目のない少女はそっと、青年の唇から、指をはずしました。



耳をすませて、瞳をひらいては、
恋はできない。