ナナ公の独り言

都内在住既婚会社員女の日記です

疑わしきは罰せず

こんにちは、語るのが下手なナナ公です。
もう4回目なのに、ちゃんとアガサの小説をとりあげたのはたった1回。
今回もブレイクタイムです。

今回はアガサの傾向・お得意ストーリーについて、でしたね。
「過去の殺人がよみがえる」
マザーグース
「疑わしきは罰せず」
クリスティーにはこの3つがよく描かれていることが多いです。
そして、この3つのどれかが出てきたときは、
まちがいない!おもしろいですよ。
「過去の殺人がよみがえる」はそのままです。
解決したと思っていた事件の犯人が真犯人ではなかった、もしくは、
殺人事件そのものが発覚されていなかったが、死体発見などで捜査がはじまる、などです。
なかには、古いお屋敷の屋根裏で見つけた子供の絵本から、
この家では昔殺人があったのではないかと、
好奇心旺盛な主人公が、捜査はじめてしまうというパターンもありました。
マザーグース」は、アガサに限ったことではありませんね。
日本でも、わらべ歌をモチーフにした推理小説結構ありますし。
あ、マザーグースというのは、作者不明のイギリス版わらべ歌のことです。

さあやっと「疑わしきは罰せず」のお話ができます。ようやくです!
これは、容疑者は犯人ではない、という意味です。
疑いだけのうちは、無罪として扱うということです。
…なんか、いいことみたいい聞こえますね。
でもね、容疑者、って言葉、いい言葉ですか?
「俺、容疑者だから、心配しないで!」そんなこと言われて信用できますか?
以下は、ミスマープルの村の噂話のひとつです。
あるお屋敷で、宝石の盗難事件があって、
疑いは、貧しい庭師の老人にかけられました。
老人は拘留され、住んでいる離れの小屋は徹底的に捜索されましたが、
宝石は出てきませんでした。
証拠がなかったので、老人は釈放され、
お屋敷に戻り、同じように働かせてもらえ、同じ場所に住み続けることができました。
でも、老人が母屋に来るときには、お金や高価な調度品は金庫にしまわれ、
老人の小屋を尋ねる人は、高価な時計やアクセサリーをはずしてくるようになりました。
「気の弱いレンフロじいさんがどんなに傷ついたことか!」
というのはミスマープルの言葉です。
その後、実は遊びに来ていた姪っ子だか甥っ子だかが、
冗談で宝石を隠して、そのまま帰ってしまったことがわかったのですが、
「かわいそうにレンフロじいさんはもう死んだ後だったんだよ!」
・・・この話をした後、ミスマープルは、
疑いをかけられて苦しんでいる親戚の若い女の子を助けるために、
セントメアリミード村を出て、犯罪に立ち向かいに行くのです。

おわかりですか?
犯罪がおきて、犯人が特定できない時、
問題なのは、罪のある犯人ではなく、罪のない容疑者たちなんです。
しかも、家族の中の一人が殺人犯だということは絶対なのに、
誰かは、特定できない。
殺されたのは、独裁者として家族を支配していた女。
ボランティアが趣味で、豊かな家の財産を使って、病院や学校建設に力をいれてきた女。
家族構成は、その夫、長女、長男、次女、三女。子供たちは皆もらわれてきた子だ。
他に屋敷に住むのは、夫に仕える魅力的な秘書と、家を取り仕切る魅力的でない家政婦。
そして、犯人と信じられていた末っ子の青年。
うそつきで女ったらしのこの青年は
子供のころから大変な問題児だったため、誰もが彼が犯人で納得していたのに。
いつのまにか、秘書を愛していることに気付いた夫。
しかし気が弱く、妻に隠れて不倫などはできない。
妻さえいなくなれば、と思わないように努力を重ねてきた。
少女の頃、うまくとりいってこの家の養女になった長女。ほしいものは手に入れる性格。
自分のあとに他の子たちが何人も養子になったのが、気に入らない。
実の母親は、飲んだくれで男をとっかえひっかえのあばずれだった長男。
でも、養子になんてなりたくなかった。金で買われてきたように思えて、恨みはまだ消えていない。
常に感情の不安定な次女。
高校卒業後、女優になりたくていったん家をとびだして小さな劇団に入ったが、
そこで妻子ある男の愛人になって捨てられ、結局母親のもとに帰ってくるしかなかった。
三女は、混血児。浅黒い肌、どこを見ているかわからない瞳。
そのせいか、深く考えるということをしないように見える。
他の子たちとは違って、素直に母親に感謝している。おいしい食べ物とあたたかい家をくれたから。
夫の魅力的な秘書は、夫のことを深く愛している。口にはださないが、確信している両想い。
魅力的でない家政婦は、外国人。
女主人を尊敬し忠実に仕えてきたのはずいぶん前のことだ。
素性のわからない子供たちを次々養子にしはじめた頃から、不愉快な女だと思っていた。
でも魅力のない外国人の年増では、他にいくところもない。

・・・そう!
これが「無実はさいなむ」のすてきな登場人物たちです!
この中の一人が犯人、それは読者にも家族にもわかっています。
でも誰かはわからない。
犯人はいいんです。自分の罪におびえるだけだから。
でもその他のただの容疑者にとって、無実というこそが、彼らを苦しめるのです。
これは、殺人者というジョーカーでするババ抜きですね。
誰がそのカードを持っているのか、
持ち主以外わからない。
あの人が持っているようにも、この人が持っているようにも見える。
時々、挿入される各々の独白シーンが、スリルを盛り上げます。
誰の独白シーンなのか、名前はきっちり書かれているし、
独白内容に嘘はないのに、
いったい誰が犯人か、
ページのこっち側ににいる我々読者にもわかりません。
まして、登場人物には他人の独白は聞けないんですから、
まったくわからないでしょう。
疑心暗鬼の醍醐味が思う存分あじわえる一冊です。