ナナ公の独り言

都内在住既婚会社員女の日記です

1.変化なし

ぱきん。
胸の奥でなにかが割れる音がした。
鏡をのぞいてみる。
なにも変わらない。
いつもどおり。
確かに胸が痛かったのに、どこにも傷ひとつない。。

休み時間のたびに、わたしの席に来るあいつ。
去年、ぴかぴかの中学1年生のとき、同じクラスで、一緒に保健委員だった。
遠慮なくなんでも言えるし、同じことで同じタイミングで一緒に笑える。
クラス替えで、違うクラスになって、階も変わったのに、
毎時間階段のぼってやってくるあいつ。
しょうがないから、わたしも席で待っている。
最近、あごにちょっとだけヒゲが生えてるのを見つけた。

昨日、気づいてしまった。
あいつが、わたしの後ろの席の小西さんを好きなこと。
昨日は、小西さん休みだった。
あいつがちらちら、小西さんの席を見るから
最初わたしは、彼女の机の上に何か置いてあるのかと思った。
小西さんは体が弱い。
去年も、貧血で倒れて、保健室に何度か運びこまれている。
今年、一緒のクラスになったとき、お礼を言われた。
去年はいろいろありがとう、って。
そういえば、わたしが保健当番のとき、何回か来たなあ。
あいつが、保健当番のときも、何回も行ったんだろうなあ。

一回気づくと、今まで気がつかなかったのが不思議だった。
あいつが大声で話すのも、小西さんに聞かせたかったからなんだ。
今度の日曜日は、部活のバレーボールの試合だって。
2年生になってやっと試合に出られるようになったんだぜ、って。
誰も応援に来てくれないんだけど…、って。
わたしに言ってたんじゃなかった。
えー、日曜かー、とわたしは口をとがらせて、
小西さんを振り返った。

ねえ、小西さん、日曜ヒマ?
え、ヒマだけど…
じゃあ、こいつの応援に行かない?
うん、いいよ。

その時のあいつの、真っ赤な顔と笑顔、みてしまった。
ずきん。
いたた。胸が。
あいつが、じゃあ俺がんばるぜ!っていなくなったあと、
小西さんが言った。
市原くんってやさしいよね。市原くん、今年も保健委員だから、わたしよく迷惑かけてるんだよね。

ぱきん。

あーあ。好きだったのかなあ。
鏡見ても何も変わらない。
ニキビのひとつもできてないよ。
あーあ。