ライン 5―①
5 さよなら、お母さんの心臓
ぼくは、ぼくの家で起こったことを陽介に話した。
「じゃあ、もう許すんだ。中桐さんを許すことにしたんだ、お父さんは」
ぼくはちょっと考えてから言った。
「うーん。お父さんはやっぱり許せないんじゃないかと思う。悟も、自分を責める以上にあの人を責めてると思うし。オレは・・・オレは、やっといろんなことがわかってきて・・・これからなんだと思う」
ぼくたちは、歩道橋の上で、下を通り過ぎる車を見ながら話していた。
「お母さんが死んだことは続いてるし」
「なんでさ!」
えっ!とぼくは顔を上げて陽介の顔を見た。陽介はなぜかけわしい顔で道路を見下ろしている。
「なんで許せたんだ。お母さん殺されたんだぞ」
あれ?ぼくは、陽介は喜んでくれると思っていたんだけど。ぼくと由貴が仲良くなることを望んでいたんじゃないのかな。
「お母さん、殺した人なんだぞ」
「えっと・・・」ぼくは、あせった。
「殺した、っていうのとは違う気がしてるんだ。なんていうか、殺そうと思って殺したわけじゃないし、それどころか、あの瞬間まであの人は、うちのお母さんのことなんて、知らなかったわけだし」
「うちのお母さんに、死んでほしくなかったのはあの人もいっしょだろうし、死んだって聞いたときはものすごくショックだったと思うしさ。だから・・・」
「じゃあ!」
今まで聞いたこともないほどの大きな声で、陽介がさえぎった。
「いいんだ!お母さんを殺したのはやっぱりあいつなんだぞ!でもいいんだ。透はいいんだ」
なんだよこれ。ぼくは陽介のキレたわけが全然わかんなかった。
「良くないよ。お母さんが死んだことは全然良くない。でも、それとあの人を責めるのとは違うことなんじゃないか、と思ってるんだ。つまり、あの人はさ、」
「殺したくて殺したんじゃないから」
陽介があとを続けた。
「・・・そうだよ」
ぼくは頷いた。
陽介はだまったまま、車の群れを見ている。夕方は渋滞気味だ。なんだか顔が青い。校門での一件から、陽介は調子が良くなさそうに見える。
「あ、だからさ、オレのことは気にしないで、図書室行ってくれ」
なんのわだかまりもない、と言えばうそになるけど、もうぼくと由貴は関係ないんだ。由貴が笑ってようと泣いてようと、息が苦しくなったりすることはもうないだろう。
「いや」陽介は首をふった。
「もう図書室には行かない」
「なんで」
「オレさ、また入院するんだ」
「ええっ」
ぼくのせいだろうか。ぼくが突き飛ばしたから。そんなぼくの心を読んだように陽介が言った。
「ちがうよ。透は関係ない。その前からあんまり調子よくなかったんだ。たぶん二学期には来れなかっただろうな。ちょっと早くなっちゃったけど、また休学さ」
へへ、と力なく笑う。
「そういえば、陽介の病気ってなんなんだよ。約束だろ」
すっかり忘れていた。陽介は答えた。
「心臓」
ぼくは、ぼくの家で起こったことを陽介に話した。
「じゃあ、もう許すんだ。中桐さんを許すことにしたんだ、お父さんは」
ぼくはちょっと考えてから言った。
「うーん。お父さんはやっぱり許せないんじゃないかと思う。悟も、自分を責める以上にあの人を責めてると思うし。オレは・・・オレは、やっといろんなことがわかってきて・・・これからなんだと思う」
ぼくたちは、歩道橋の上で、下を通り過ぎる車を見ながら話していた。
「お母さんが死んだことは続いてるし」
「なんでさ!」
えっ!とぼくは顔を上げて陽介の顔を見た。陽介はなぜかけわしい顔で道路を見下ろしている。
「なんで許せたんだ。お母さん殺されたんだぞ」
あれ?ぼくは、陽介は喜んでくれると思っていたんだけど。ぼくと由貴が仲良くなることを望んでいたんじゃないのかな。
「お母さん、殺した人なんだぞ」
「えっと・・・」ぼくは、あせった。
「殺した、っていうのとは違う気がしてるんだ。なんていうか、殺そうと思って殺したわけじゃないし、それどころか、あの瞬間まであの人は、うちのお母さんのことなんて、知らなかったわけだし」
「うちのお母さんに、死んでほしくなかったのはあの人もいっしょだろうし、死んだって聞いたときはものすごくショックだったと思うしさ。だから・・・」
「じゃあ!」
今まで聞いたこともないほどの大きな声で、陽介がさえぎった。
「いいんだ!お母さんを殺したのはやっぱりあいつなんだぞ!でもいいんだ。透はいいんだ」
なんだよこれ。ぼくは陽介のキレたわけが全然わかんなかった。
「良くないよ。お母さんが死んだことは全然良くない。でも、それとあの人を責めるのとは違うことなんじゃないか、と思ってるんだ。つまり、あの人はさ、」
「殺したくて殺したんじゃないから」
陽介があとを続けた。
「・・・そうだよ」
ぼくは頷いた。
陽介はだまったまま、車の群れを見ている。夕方は渋滞気味だ。なんだか顔が青い。校門での一件から、陽介は調子が良くなさそうに見える。
「あ、だからさ、オレのことは気にしないで、図書室行ってくれ」
なんのわだかまりもない、と言えばうそになるけど、もうぼくと由貴は関係ないんだ。由貴が笑ってようと泣いてようと、息が苦しくなったりすることはもうないだろう。
「いや」陽介は首をふった。
「もう図書室には行かない」
「なんで」
「オレさ、また入院するんだ」
「ええっ」
ぼくのせいだろうか。ぼくが突き飛ばしたから。そんなぼくの心を読んだように陽介が言った。
「ちがうよ。透は関係ない。その前からあんまり調子よくなかったんだ。たぶん二学期には来れなかっただろうな。ちょっと早くなっちゃったけど、また休学さ」
へへ、と力なく笑う。
「そういえば、陽介の病気ってなんなんだよ。約束だろ」
すっかり忘れていた。陽介は答えた。
「心臓」